遺産管理人はどのような権限を有しますか

1 遺産管理人とは

遺産管理人とは、相続が開始してから遺産分割終了時までの間、遺産を管理する者をいいます。
遺産の管理とは、遺産を保管してその財産的価値を保持または増加させることをいいます。
遺産管理人は、遺言がある場合の遺言執行者の立場に似ていますが、遺言執行者が、遺言の実現を妨げる行為を排除するのみならず、遺言の実現を積極的に行うことが要求されている一方、遺産管理人は、遺産の管理というどちらかといえば受動的な立場であることが異なっています。

遺産管理人は、次のような理由から必要になる場合があります。
遺言がなく、相続人が複数の場合には、相続財産は共同所有関係になります(民法898条)。
この共同所有関係は、遺産分割により最終的に各相続人に帰属先が決められますが、それまでは暫定的な所有関係となります。
一方、各相続人間に意見の対立などがある場合には、遺産分割が成立するまでには時間を要する場合もありますし、このように時間を要する間に、相続人の一部が相続財産を処分したり、費消させてしまうことがありえます。

たとえば、不動産の場合には、相続人の一人が相続登記を行うことができ、共有持分を第三者に譲渡することも可能ですが、このようなことをしてしまうと、法律関係が複雑化して、遺産分割が困難になる可能性がありえます。
このような場合に、遺産管理人を選任して、遺産分割が終了するまで遺産の管理を行ってもらうことが必要になります。

2.遺産管理人の選任

遺産管理人は、共同相続人全員の合意により選任される場合と、審判前の保全処分として相続財産の管理のため必要であるとして家庭裁判所により選任される場合があります(家事事件手続法200条1項)。
遺産管理人の選任は必須のものではありません。

遺産管理人の選任を行う場合、申立人は、審判調停の申立をしたものには限定されず、相続人であれば申立てをすることができます。
管轄は、本案の遺産分割審判又は調停事件の係属している家庭裁判所です(家事事件手続法105条1項)。
遺産管理人の選任を申し立てる場合、申立書に候補者を記載することも可能であり、共同相続人の中から選任されることもありますが、利害対立がある場合には、弁護士が選任されることが通常です。

3.遺産管理人の選任が必要な場合

遺産管理人選任が認められるためには、「財産管理の必要性」が必要になります。
財産管理の必要性とは、遺産の管理ができず、また、遺産の管理が不適切であるため、後日の審判が適正になされなくなったり、強制執行による権利実現が困難となるおそれがある場合をいいます。

具体的には、以下のような場合をいいます(片岡武編「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)280頁)。
① 共同相続人が、何らかの事情で遺産の管理をすることができない場合
② 遺産を管理する共同相続人が、他の相続人の同意を得ずに遺産を費消、廃棄、毀損している場合
③ 遺産を管理している共同相続人が、地代、家賃などの賃料の取立てをしない場合
④ 遺産を管理している共同相続人が、家屋の修繕などをしない場合
⑤ 共同相続人の一人が、他の共同相続人を無視して管理している場合であって、管理している相続人の管理が不適切であり、後日の遺産分割方法に影響が及ぶ場合
⑥ 遺産を管理する共同相続人が、過去において、他の相続人の同意を得ずに遺産を費消していた場合

一方、共同相続人の一人が、管理する遺産の収益を明らかにしない場合や、管理する遺産の収益を他の相続人に分配しない場合は保全の必要性は認められないと考えられています。

4.遺産管理人の権限

遺産管理人は、保存行為及び管理行為をする権限を有します(家事事件手続法200条3項、民法28条・103条)。
なお、権限があるとしても、これら行為をすることがすべて許されるわけではなく、行為の態様によっては、善管注意義務違反となりうる可能性がある点には注意が必要です。

保存行為

保存行為とは、遺産の現状を維持する行為をいいます。
具体的には、以下のような行為です。
①相続登記
②被相続人のした売買契約又は取得時効に基づく移転登記
③不法占有者に対する妨害排除請求
④消滅時効の中断
⑤期限の到来した債務の弁済
⑥応訴
⑦上訴
⑧預金の払戻し・口座の解約(ただし、定期預金の満期前解約は処分行為になります)
⑨貸金庫の開扉
なお、①から④について、訴訟提起を行うことは処分行為になります。

管理行為

管理行為とは、物又は権利の性質を変じない範囲内の利用又は改良行為をいいます。
具体的には、以下のような行為です。
①民法602条の期間を超えない賃貸借契約の締結
②使用貸借契約の締結
③詐欺による取消の意思表示
④賃貸借契約、使用貸借契約の解除
⑤現金の預金口座への預入れ(ただし、片岡武編「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務」(第2版)295頁は変更行為として権限外行為許可が必要とします)

処分行為

管理行為を超える処分行為を行うには、家庭裁判所の権限外行為許可の審判が必要になります(家事事件手続法200条3項、民法28条)。
具体的には、以下のような行為です。
①売却、交換、担保の設定
②廃棄、取壊し
③期限未到来の債務の弁済、管理行為により発生した債務の弁済
④訴えの提起、訴えの取下げ、和解、調停の申立て、請求の認諾・放棄、上訴の取下げ
⑤民法602条の期間を超える賃貸借契約または借地借家法の適用のある賃貸借契約の締結
⑥定期預金の満期前解約
⑦生命保険契約の満期前解約
遺産管理人が、権限外行為許可を受けずに権限外行為を行った場合には、代理権踰越の行為となり、無権代理として無効となるのが原則です(民法113条)。


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