相続により取得した土地を国に帰属させることはできますか

1 相続土地国庫帰属法の制定

 都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化・土地を利用したいというニーズも低下し、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える者が増加しています。また、相続を契機として望まない土地を取得した所有者の負担感が増し、管理の不全化を招いています。
 このような背景が所有者不明土地を発生させる要因となっていることから、将来的に土地が所有者不明化し、管理不全化することを予防するため、相続により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とするため、2021年に、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)が成立しました(相続コラム「所有者不明土地の解消に向けた民法改正等」)。
 相続により土地の所有権を取得した者は、この法律により、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができるようになります。ただ、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件を設定し、法務大臣が要件を審査します。
 国庫への帰属は、売買や贈与ではなく、所有権の放棄でもなく、法務大臣の承認という処分による移転とされています。

2 承認の要件①-申請者

 申請者は、相続等(相続又は相続人に対する遺贈)により土地の全部又は一部を取得した者です。
 土地が数人の共有に属する場合、相続等により当該共有持分を取得した者を含む共有者全員により申請をする必要があります。

3 承認の要件②-申請対象

 申請対象は、その一部又は全部が相続等の原因により取得された土地です。また、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用を要する土地(以下のような土地)に該当しないことを要します。
ア.建物や工作物等がある土地
イ.土壌汚染や埋設物がある土地
ウ.崖がある土地
エ.権利関係に争いがある(境界が明らかでない、所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある)土地
オ.担保権や賃借権が設定されている土地
カ.通路など他人によって使用される土地

4 承認の要件③-負担金の納付

 承認申請者は、土地の性質に応じた標準的な10年分の管理費用を考慮して算出した負担金を納付する必要があります。
 標準的な10年分の管理費用は、市街地の宅地(200㎡)で80万円程度、原野で20万円程度と予想されていますが、詳細は政令で規定されることになります。

5 法務大臣(法務局)による調査手続

 法務大臣は、承認申請にかかる審査のため必要があると認めるときは、職員に実地調査等をさせることができます。
 申請者が調査への協力を拒否した場合、制裁はありませんが、申請承認却下事由となりますので、相続した土地を国庫に帰属させるためには、調査に協力する必要があります。


相続財産についてのその他のQ&A