成年被後見人の遺族が成年後見人の横領行為に対して国家賠償請求をした事例【東京高判平成29年4月27日】

弁護士

篠田 大地

  • 1 はじめに

     昨今、成年後見人として選任された司法書士等の専門職が、預かっている金員を横領したという事案が報道されています。
     この場合、被害にあった成年被後見人やその遺族は、成年後見人に対して、損害賠償請求を行うことが可能です。
     ただ、横領するのは、往々にして、成年後見人自身がお金に困っていたなどの理由があるからであり、成年後見人に対して損害賠償請求しても、実際に賠償の支払を受けることは困難と言った場合があります。
     そこで、成年被後見人や遺族は、後見人を監督する立場である裁判官(国)に対して国家賠償請求をすることができるでしょうか。
     この点について、参考になる裁判例として、東京高判平成29年4月27日がありますので、以下でご紹介させていただきます。

  • 2 事案の概要

     本裁判例の事案の概要は以下のとおりです。
    ・控訴人の母亡Aの成年後見人に選任されたZ司法書士が、亡Aの生前死後を通じて、成年後見人として預かり保管中の亡Aの預金等から6749万4604円の金員を払い戻して着服する横領行為(本件横領)をした。
    ・控訴人が、被控訴人に対し、東京家庭裁判所立川支部(立川支部)の担当裁判官において、Z司法書士を亡Aの成年後見人に選任するに当たり、成年後見人としての適格性を十分に調査すべきであったのにこれを怠り、その選任後も、Z司法書士の横領行為を疑うべき事情があったのにこれを看過して適切な監督を怠ったと主張して、国家賠償法一条一項に基づき、本件横領による損害額6620万8326円及び弁護士費用相当額662万0832円の合計額7282万9158円並びにこれに対する最後の横領行為の日である平成26年11月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。
    ・原審は控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。

  • 3 判旨

    「家庭裁判所は、成年後見人の後見事務の監督に関して、いつでも、成年後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の調査をするとともに、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命じることができるなどの広範な権限を有しているところ、成年後見人の後見事務の監督についても、独立した判断権を有し、かつ、独立した判断を行う職責を有する裁判官の職務行為として行われるものであることに鑑みれば、裁判官による成年後見人の後見事務の監督につき職務上の義務違反があるとして国家賠償法上の損害賠償責任が肯認されるためには、裁判官が違法若しくは不当な目的をもって権限を行使し、又は裁判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使し、又は行使しなかったものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」

  • 4 コメント

     裁判官に対して国家賠償請求をしようとする場合、最判昭和57年3月12日は、「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによつて当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」と述べています。
     これは、「裁判官の争訟の裁判」に関して述べたものですが、「裁判官の争訟の裁判」については、「特別の事情」がないと、違法にはならないと解されており、違法になる場合が極めて限定的に考えられています。
     本件は、「争訟の裁判」ではなく、「後見事務の監督」です。このような場合にも、最判昭和57年3月12日と同様に、違法性を限定的にとらえるのかが問題となりますが、上記裁判例は、「後見事務の監督」においても、「裁判官が違法若しくは不当な目的をもって権限を行使し、又は裁判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使し、又は行使しなかったものと認め得るような特別の事情があることを必要とする」と、違法性をきわめて厳格に解釈しました。
     本裁判例を前提とすると、成年被後見人や遺族が国家賠償請求を行うのは、多くの場合において難しいと考えられます。