過去の扶養料の求償と寄与分との関係【大阪高決平成15年5月22日】

弁護士篠田大地

  • 1 はじめに

    遺産分割調停事件において、相続人の1人のみが親(被相続人)を扶養していた(生活費を負担していた)として、寄与分の主張がなされることがあります。
    この扶養により、親(被相続人)の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたといえる場合には、寄与分として認められることがあります。

    一方、相続人の1人のみが扶養していた場合に、他の相続人に対し、過去の扶養料の求償を申し立てるという方法もあります。

    寄与分の主張と過去の扶養料の求償の申立というのは、どちらも似た事情を内容とするものになるわけですが、どちらの手続きによるべきなのでしょうか。
    この点について参考になる裁判例として、大阪高決平成15年5月22日がありますので、ご紹介いたします。

  • 2 事案の概要

    (1)当事者

    被相続人Aには、相続人として、子Xと子Yら6名(1名は代襲相続人)がいました。

    (2)事情

    ・被相続人は昭和60年10月13日から平成11年12月20日までの14年2か月の間、子Aの近くのアパートに住み、冬場4カ月は子Aの自宅に同居をしていました。
    ・子Xは、生活費を毎月被相続人に渡していました。

    (3)経緯

    ・H12.10.15 子Xは被相続人の遺産分割調停を申立
    ・H13.1.30  子Xは寄与分を定める調停を申立
    ・H14.1.11  松山家庭裁判所宇和島支部において、寄与分を定める処分申立ての却下及び遺産分割審判
    ・H14.2.1   子Xは子Yらに対し過去の求償を求めて親族関係調整調停を申立
    ・H14.5.22  親族関係調整調停が不調となったため、子Xは過去の求償を求めて審判を申立

  • 3 判旨

    (1)寄与分審判において過去の扶養を主張することについて

    「遺産分割の機会に、遺産分割に関する紛争と過去の扶養料に関する紛争を一挙に解決するため、過去の扶養料の求償を求める趣旨で寄与分審判を申し立てることが許されないわけではなく、実務上はそのような寄与分審判の申立ても許容されている(先行審判も抗告人の寄与分審判の申立てを不適法とはしていない。)。」
    ただし、
    「遺産総額が少ない場合には、そもそも寄与分制度を通じて過去の扶養料を回収することはできないし、寄与分審判の審理においては、一般に、過去の扶養料の求償権の有無及び金額を定める上で極めて重要な要素となる同順位扶養義務者の資力が調査されることはなく、その資力を考慮して寄与分が定められることもない。そうすると、寄与分審判によっては、過去の扶養料の求償に関する適切な紛争解決が必ずしも保障されているとはいえない。」

    (2)過去の扶養料の求償の原則的な方法

    以上のことから、
    「過去の扶養料の求償を求める場合には、原則として、扶養審判の申立てがされるべきであるといわなければならない。」
    「扶養義務者の一人が自己の分担義務の限度を超えて扶養義務を履行した場合、家事審判法9条1項乙類8号所定の審判(以下「扶養審判」という。)を申し立て、過去の扶養料につき他の扶養義務者に求償を求めることができる。この場合、家庭裁判所は、各扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して各人の扶養義務の分担の割合を定めることになる(最高裁判所第二小法廷昭和42年2月17日判決・民集21巻1号133頁)。」

    (3)寄与分の主張と過去の扶養料の求償の申立との関係

    「寄与分審判と扶養審判は二者択一の関係に立つとか、寄与分審判の申立てをした以上は扶養審判の申立てが許されなくなると解すべきではない。
     すなわち、過去の扶養に関して寄与分審判で何らかの判断がされたとしても、寄与分としては認定されなかった過去の扶養に関し、本来的な権利行使の手段である扶養審判が申し立てられれば、家庭裁判所は、各扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して各人の扶養義務の分担の割合を定める必要があるといわなければならない(もちろん、寄与分が認められた分についてまで、重ねて過去の扶養料の求償が許されることにならないことはいうまでもない。)。」

  • 4 コメント

    以上のとおり、本決定では、仮に過去の寄与分審判において扶養の主張をしていたとしても、別途扶養審判を申し立てることが可能であると判断しました。

    なお、本決定の事案では、先行審判において寄与分を定める処分申立てが却下されており、寄与分の主張を認めていませんが、そのこと自体適切であったといえるか、疑問があります。先行審判は被相続人が療養看護を必要とする状態にはなかったからという理由で寄与分を認めていませんが、療養看護の必要性と寄与分が認められるか否かは直結しないからです。

    相続人の1人のみが親(被相続人)を扶養していた(生活費を負担していた)という事情がある場合、実務的には、まずは本決定の事案と同様、当初は遺産分割調停事件を申し立てるとともに、寄与分審判の申立を行うことになるでしょう。
    そして、寄与分審判において寄与分が認められず、また、過去の扶養料に関して十分に事情が斟酌されていないと考えるときには、その後、扶養料の求償の審判を申し立てることを検討することになるでしょう。