公正証書遺言が無効とされた事例 (東京地裁令和7年6月9日判決)

弁護士

本橋 美智子

  • 第1 公正証書遺言の無効主張の困難性

     公正証書遺言は、公証人が遺言者の口授を受けて作成するものであるため、遺言作成時に遺言者が認知症等にり患していたとしても、これを無効とすることはかなり困難です。

  • 第2 公証人の遺言者の意思確認方法について

     本判決では、公証人による遺言者の意思確認方法について、以下のようにその問題点を指摘して、公正証書遺言を無効と判示しています。
     これは、他の公正証書遺言の効力が問題となる事案についても、参考になると思いますので、紹介します。
     「本件遺言に関しては、事前に遺言書の文案が作成されていたほか、A公証人及びN(公正証書遺言の証人)は、B(遺言者)が認知症であることを事前に知らされていなかったことが認められるのであり、本件遺言書の作成に際しては、Bの認知機能に問題がないことを前提に、誘導的な質問がされた可能性を排除することはできないというべきである。P医師は、認知症患者の真意を汲み取るためには、ある質問に対して肯定する回答があったとしても、それと正反対の質問をし、それに対する返答が否定であると確認できなければ、当初の質問に対する回答が認知症患者の真意であると判断することはできない旨を証言しており、当該証言は、認知症患者の意思確認手法として合理的な内容であるということができるが、本件では、Bに対し、原告らに財産を残したいのは何故か、といった反対の趣旨での質問がされた形跡は見当たらない。
     なお、A公証人は、本件遺言作成当時のことは全く覚えていない、覚えていないということは、何の滞りもなく終わったということであると述べるが、 こうしたA公証人の認識(前述のとおり、同人はBが認知症に罹患していることを事前に知らされていなかった。)からも、厳格な意思確認が行われたか否かは定かでないといわざるを得ない。
     以上からすれば、Bが、明瞭に本件各発言をしていたのかについて疑問が残るというべきであるし、また、仮に、本件各発言が存在したとしても、一定の誘導に従って述べたものである可能性を否定することができず、Bが正常な認知機能を有していたことを推認させる事情であるということはできないから、上記の各医学的意見の信用性は左右されないというべきである。」