「相続における同時存在の原則」とはなんですか、「同時死亡の推定」とはどのような関係がありますか

1 「相続における同時存在の原則」の意味

 相続は、(被相続人の)死亡によって開始するとされています(民法882条)。相続開始時(=被相続人死亡のとき)に相続人は存在していなければならないとする原則を「相続における同時存在の原則」といいます。
 被相続人が死亡したときに、相続人が存在していれば、その後ほどなく相続人が死亡したとしても、(第一段階として)被相続人の相続は開始されて、引き続き死亡した当該相続人についての相続が(第二段階として)開始することとなります。たとえば、同日の午前10時に親が死亡し、同日の午後2時に長女が死亡した場合には、長女は親(被相続人)の相続について相続人となりまして、その後に長女(被相続人)の相続が行われます。その際、長女の配偶者(夫)も長女の相続人となります。しかし、同日午前10時に長女が死亡し、同日の午後2時に親が死亡した場合では、長女は親の相続について相続人とはなりません。長女に配偶者(夫)がいたとしても、その夫は、親の相続には加われないことになります。
 この「相続における同時存在の原則」の例外となるのが、胎児の場合です。民法3条1項により「私権の享有は、出生に始まる」とされています。しかし、民法886条1項は、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。胎児は、厳格にいうと(出生していないのですから)権利享有の主体とはなりえないはずですが、相続については例外として「存在している」とみなされる取扱いとなります。
 なお、胎児が死産となったときは、はじめから存在していなかったこととなります(民法886条2項)。

2 「同時死亡の推定」との関連

 民法32条の2は「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は同時に死亡したものと推定する」と定めています。たとえば、飛行機事故や登山事故などで、親と子が死亡して、どちらが先に死亡したかがわからないことがあります。そのような場合には、この「同時死亡の推定」を受けることとなります。被相続人死亡時に相続人となるべき者も同時に死亡したときは、被相続人死亡時に相続人となるべき者は存在していないこととなりますので、前述の「相続における同時存在の原則」を充足していないため、相続人となるべき者であったとしても、(被相続人の相続における)相続人にはなり得ないこととなります。数人の者が同時に死亡したときは、それらの者の相互間において、相続は発生しないこととなります。したがいまして、前述の飛行機事故などで親と子が死亡して、どちらが先に死亡したのかわからないときは、その親と子間では、相互に相続が生じない取扱いとなります。
 なお、少子高齢化・核家族化の時代をむかえており、いわゆる孤独死も多くなってきています。そのような場合、死亡の日時が不分明なことがあり得ます。他の者の死亡の前に(孤独死により)死亡したのか、他の者の死亡の後に(孤独死により)死亡したのかが不分明の場合には、民法32条の2による同時死亡の推定及び前述の「相続における同時存在の原則」に従って、相互に相続は発生しない扱いとなると考えられます。


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