遺留分侵害額請求権を代位行使することはできるでしょうか

1 具体例

遺留分侵害額請求権の代位行使が考えられる事例として、例えば、Aに貸付を行っていたが、Aが資力がないということで、貸金を返済してくれていなかったところ、Aの父親が死亡した、Aの父親は、Aにはなにも相続させない旨の遺言を残しているが、Aには遺留分があるということが考えられます。
このような場合、Aが遺留分侵害額請求権を行使すれば、貸主としては、遺留分から返済を受けることは可能ですが、遺留分侵害額請求権を行使しない場合、貸主は返済を受けることができません。

2 遺留分減殺請求権の代位行使ができるか(従来の議論)

債権者は、債務者が無資力であるにも関わらず、自己の権利を行使しない場合、債権を保全するため、債務者に代わって債務者の権利を代位して行使することができます。これを、債権者代位権といいます(民法423条1項)。

そこで、上記のような事例の場合、貸主としては、Aの遺留分減殺請求権を代位行使することが考えられますが、このような代位行使が認められるのでしょうか。

この点については、債権者代位権が認められない要件として、「債務者の一身に専属する権利」の場合は行使できないと定められていることから(民法423条1項但書)、遺留分減殺請求権の代位行使がこれに該当しないかが問題となります。

この点について、最一小判平成13年11月22日(判例タイムズ1085号189頁)は、「遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。」と判示しました。
その理由としては、「民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとしたうえ、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたもの」であるため、行使上の一身専属性を有し、民法423条1項但書にいう「債務者の一身に専属する権利」であるからと述べています。

したがって、上記判例からすれば、上記のような事例の場合、債権者が債務者の遺留分減殺請求権を代位して行使することはできないということになります。
Aが遺留分減殺請求権を行使すれば、遺留分から返済を受けることは可能ですが、Aがこれを行使しない場合には、貸主は遺留分減殺請求を代位行使することはできません。

このような結論は、債権者にとっては納得できないところとも思えますが、上記判決はこの点に関して、「債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、これを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。」と述べています。

3 遺留分侵害額請求権の代位行使ができるか

上記のとおり遺留分減殺請求権については、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねられたものであって、行使上の一身専属性を有しており、その代位行使はできないとする最高裁判例(平13.11.22)がありました。
遺留分侵害額請求権は、相続法改正に基づく新しい制度であり、それについて代位行使ができるかについての判決例等はまだありません。
しかし、基本的には、遺留分減殺請求権について代位行使を認めなかった前記最高裁判決と同様に、遺留分侵害額請求権についても、遺留分権利者の自律的決定にゆだねられたものであって、行使上の一身専属性を有しており、その代位行使はできないとする解釈となるものと考えられます。
ただし、遺留分侵害額請求権は、金銭請求権(債権)ですので、代位行使を認めても良いものではないかという考え方も出てくる可能性はあります。

4 相続放棄と詐害行為取消権

上記の事例は、遺留分減殺請求権や遺留分侵害額請求権を行使しない場合についてでしたが、相続分があったにも関わらず相続放棄をした場合にも同じような問題が生じます。
この点については、相続放棄についても、詐害行為取消権(債権者が債務者の行為を取り消す権利)を行使することはできないと考えられています(最二小判昭和49年9月20日判例タイムズ313号223頁)。


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