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弁護士
本橋 美智子
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被相続人は、アメリカ合衆国の市民権を取得した者で、平成30年に死亡し、最後の住所は、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市にあった。
被相続人の共同相続人は、妻であるX、被相続人と前妻との間の子であるY1、Y2である。Y1とY2は、いずれもアメリカ合衆国の市民権を取得し、同国に居住している。
XがYらに対し、神奈川県相模原市にある不動産の遺産分割を求める審判を、横浜家裁相模原支部に申し立てた。
原審の横浜家庭裁判所相模原支部は、家事事件手続法によると、相続に関する審判事件について日本が国際裁判管轄権を有するのは、①相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、②住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、③居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)とされている(同法3条の11第1項)。
しかるところ、本件においては、被相続人はアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市に最後の住所を有していたことから、上記の①ないし③のいずれにも該当しないので、日本の裁判所は、本件について国際裁判管轄権を有しないと判示して、Xの申立てを却下した。
しかし、抗告審の東京高裁は、以下のように述べて、原審判を取り消し、本件を横浜家裁相模原支部に差し戻した。
1 X提出に係る資料によると、相続について、管理清算主義が採用されているアメリカ合衆国に
おいては、被相続人の相続開始時の住所地にある裁判所の関与の下で、プロべイトと呼ばれる遺
産管理手続が行われるが、その管轄地外に所在する不動産については別途当該所在地において同
手続を行わなければならないとされているため、国外にある不動産については、そもそも同手続
による遺産の分割を行うことができない。そうすると、本件について、被相続人の相続開始時の
住所地である同国ネバダ州において同手続による遺産分割を行うとしても、日本国内にある本件
土地については、分割の対象とすることができないことになる。
2 このような場合に、日本の裁判所において、相続人全員による管轄合意が成立しない限り、 明
文の規定に基づく国際裁判管轄権を欠くことにより、遺産分割の審判ができないことになると、
そもそも当該遺産の分割をする方法がなくなるところ、こうした裁判の拒否に当たるような事態
を避けるため、条理に基づき、例外的に日本の裁判所が管轄権を有するものと解するのが相当で
ある。こうした管轄権は、いわゆる緊急管轄と呼ばれるものであるが、人事訴訟及び家事事件の
国際裁判管轄法制の整備が行われた人事訴訟法等の一部を改正する法律 (平成30年法律第20
号) によっても、明文の規定は設けられなかったものの、立法時の審議の経過からも、当該事案
の下で解釈(条理)により適用される場合があることは否定されないというべきである。
3 以上によれば、被相続人の遺産のうち、日本に所在する本件土地の分割については、前記認定
に係る本件の事実関係の下で、XとYらの間で管轄合意を成立させることが困難とみられること
も踏まえると、上記の緊急管轄の法理により、例外的に日本の裁判所に国際裁判管轄権を認める
のが相当である。そして、日本国内の土地管轄については、 家事事件手続法191条1項によっ
て管轄は定まらないから、同法7条により、審判を求める事項に係る財産である本件土地の所在
地を管轄する横浜家裁(相模原支部)の管轄に属するというべきである。
被相続人の最後の住所が日本でない場合でも、日本にある不動産の遺産分割について、日本の家庭裁判所に緊急管轄を認めた判例として参考になる。
ただし、どのような要件がある場合に、日本の裁判所に緊急管轄を認めるのかについては、今後の判例の蓄積を待つことになろう。