投資信託の相続【最判平成26年12月12日】

弁護士

本橋 美智子

  • 1 はじめに

    投資として投資信託を購入している方も多いと思います。

    投資信託の中でも、公社債投信や、MMF,MRFは、すぐに解約ができる商品として、預金と同じように考えている方も少なくないでしょう。

    投資信託を購入した人が死亡した場合に、投資信託は遺産となりますが、これを解約するには、相続人全員の承諾が必要か、各相続人が自分の相続分については、解約をして解約金を取得できるかが問題となります。

    この点について判例を紹介しましょう。

  • 2 最高裁平成26年2月25日判決

    遺産であるMRF、米ドル建てMMF等に関して、最高裁平成26年2月25日判決は、「共同相続された上記投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」と判示しました。

    これまで、投資信託受益権について、可分債権として、各相続人がその相続分に応じた受益権の解約、解約金請求等ができるかについて、下級審では見解が分かれていました。

    しかし、この最高裁判決で、投資信託受益権は、各相続人が相続分に応じて、解約や解約金の請求はできないことが確定したことになります。

  • 3 最高裁平成26年12月12日判決

    2の最高裁判例に続いて、平成26年12月12日に最高裁判例が出ました。

    判決全文は以下に掲載されています。
    http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/688/084688_hanrei.pdf

    この事案は、次のとおりです。

    原告の父(被相続人)は、証券会社から投資信託(本件投資信託)を購入していました。

    被相続人は、平成8年に死亡し、相続人は子3人でした。

    平成16年に投資信託は満期償還となり、満期償還金と分配金が被相続人の証券会社の口座に預かり金として保管されていました。

    相続人の1人は、証券会社に対し、預かり金のうち法定相続分である3分の1に相当する金額の支払いを求めて訴訟を提起しました。

    しかし、一審、控訴審とも原告の請求を棄却しました。

    最高裁も、まず2の最高裁判決を引用したうえで、以下のように述べて、原告の上告を棄却しました。

    「元本償還金又は収益分配金の交付を受ける権利は上記受益権(投信信託の受益権)の内容を構成するものであるから、共同相続された上記受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合にも、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の1人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができないというべきである。」

    被相続人の死亡時に存在した投資信託は、その後満期償還されて証券会社の預かり金になっていても、投資信託の性質は失なわれず、相続人が単独で預り金の請求はできないということです。

  • 4 注意点

    遺産である銀行の普通預金は、可分債権として、各相続人が銀行に対し、自己の相続分に相当する金額を請求することができます。

    しかし、上記のように投資信託は、MMFやMRFのような商品であっても、相続が開始されると、相続人全員の同意がない限り、解約や解約金、償還金、分配金の請求はできないことになります。

    基準価額の変動の大きい投資信託や外貨建ての投資信託の場合には、相続人全員の同意が得られないために、基準価額が下落したり、為替変動による損失が出ることもあり得ます。

    この点は、あまり一般に知られていないと思いますので、注意が必要です。

    その他、投資信託や国債の注意点は、「相続において投資信託や国債はどう取り扱われるのでしょうか」をご覧ください。

  • 5 検討

    通常の投資信託の共同相続については、この2つの最高裁判例で、確定したといえるでしょう。

    しかし、投資信託の約款等で各相続人が自己の相続分に応じた請求ができる商品を開発をすることは考えられます。

    また、法理論上は、この判例と、「相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。」とする最高裁平成17年9月8日判決などとの整合性も問題になります。

    投資信託の分配金は、不動産の賃料と同様に、投資信託の果実とも考えられるからです。

    このように、この判例は、今後いろいろ議論される可能性が高い重要な判例といえるでしょう。