遺産分割協議成立後に新たに発見された遺産の遺産分割においては、先行した遺産分割協議の際に不均衡が生じていたとしてもそれを考慮すべきではないとされた事例(大阪高裁令和元年7月17日決定)

弁護士

本橋 光一郎

  • 1 遺産分割における一部分割の可否

     従前、遺産分割においては、遺産全体について、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、相続人間の分割を行うべきであるとして、原則として、一部分割を認めるべきではないとする考え方もありました。
     しかし、一部分割を行う合理的理由があり、かつ民法906条所定の分割の基準に照らして遺産全体の総合的配分に齟齬を来さず、残余財産の分配によって相続人間の公平をはかることが可能である限り、当事者間で成立した一部分割を当然無効とする必要はないとする考え方が審判実務となっていました。
     そして、実際上も、一部分割は、かなり活用されているのが実情であります。たとえば、ある財産について配偶者による相続取得とすることで、税務上の配偶者控除を受ける場合、あるいは、ある不動産について特定の相続人の相続取得として、税務上の小規模宅地の税軽減を受ける場合、さらには、特定の不動産について購入希望者が現れたので、その不動産について相続取得を先行させる場合その他であります。
     そして、平成30年相続法改正において、遺産分割協議において一部分割が可能であること自体については、立法的に明確化されたものです(民法907条1項)。ただし、一部分割後の残余財産の分配のあり方の基準については、改正法においても特段の定めはおかれていません。

  • 2 一部分割後の残余財産の遺産分割の方法

     一部分割をした場合に残余財産の遺産分割について、一部分割における不均衡を残余財産分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従った分割をすべきかどうかについては、議論の余地のあるところです。
     「一部分割における不均衡を残余財産分割の際に修正するか否かは、一部分割の際の当事者の意思表示の解釈によって定まるが、特段の意思表示がないときは、一部分割における不均衡を残余遺産の分配において修正するべきである」(東京家裁 昭47.11.15 家月25.9.107)という審判例もありました。
     「残余財産についての遺産分割の方法は、先行協議の意思解釈によって定まるべきであり、多くの場合、関係者は一部分割と残余財産の分割とを独立させ、それぞれ個別的決着をつける意思であろうし、そのように解するのが紛争の蒸し返しを避けるためにも相当ではないか」という見解も示されていました。(佐藤康「一部分割の可否」判タ688.231)
     いずれにしても、先行協議についての意思解釈により、残余財産の分割協議の際に先行協議の不均衡の修正を行うか否かが決せられるというべきです。

  • 3 大阪高裁令和元年7月17日決定(本決定)

     本決定の事案では、被相続人Cが平成11年に死亡し、その相続人は妻D(その後平成13年死亡)、子B、及び子Aの3名であり、上記相続について、平成12年に(先行の)遺産分割協議(以下、「先行協議」といいます)が成立し、亡Dが自宅土地建物、預貯金183万円と現金100万円(相続税申告書上の評価額約3223万円)、Bが農地、農耕具、農協出資金(同評価額約3355万円)、Aが現金200万円(同評価額200万円)を取得していました。その後、平成16年に亡Cの遺産として本件遺産(預貯金1354万9269円)が新たに発見されました。
     Aは、先行協議に著しい不均衡があったので、本件遺産の分割協議において、その不均衡の修正を行ない、本件遺産はAの取得とするべきであると主張しました。
     Bは、先行協議で取得した農地は市街化調整区域内のものであり、実際上、売却することは困難であることが多く、実際の価額としても相続税評価額よりも著しく低いものであり、亡Cの葬儀費用をBが全部負担していることを考慮すると、先行協議においてAB間に著しい不均衡は生じていないと主張しました。
     原審(大阪家裁平成31年3月6日審判)は、「A及びBは、先行協議の際には、本件遺産の存在を知らなかったのであって、先行協議の対象となっている財産のほかに、分割対象となる遺産があるとは考えていなかったと認めるのが相当である。先行協議において、AとBが取得した財産の価額に差があるとしても、Aはそれを受忍して、先行協議に応じたものである。その後に発見された本件遺産の分割において、先行協議で各自が取得した財産の価額を考慮するのは相当でなく、本来の相続分に応じて各自が取得する財産の価額を定めるのが相当である。」として、本件遺産について法定相続分による遺産分割の審判をしました。
     これを不服として、Aは大阪高裁に抗告を申立てましたが、大阪高裁(本決定)も原審の判断を相当として、Aの抗告を棄却しました。大阪高裁の判断は、「先行協議の際、Bは預貯金や現金を取得せず農地と農耕具などを取得し、Aは現金200万円のみを取得し、亡Dは自宅不動産のほかに預貯金183万円と現金100万円を取得しており、相互に代償金の支払を定めることもなく遺産分割協議は成立していた。そうすると、先行協議の際に判明していた遺産の範囲においては遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったというべきである。先行協議において、法定相続分と異なる不均衡な遺産分割協議後に判明した本件遺産の分割において、先行協議の不均衡を考慮すべきであるとの抗告人(A)の主張は採用することができない。」とするものです。

  • 4 私見

     一部分割と残余財産の分割については、先行された一部分割の際に、残余財産の分割が想定されていたか否か、(残余財産の分割が想定されていた場合には)その残余財産の分割の際に、先行分割の不均衡を修正する意思が当事者間にあったのか否かが問題解決のキーポイントとなります。
     本決定の事案では、そもそも残余財産の存在を想定せずに先行の分割協議がなされているのですから、先行協議によって、対象となる財産についての遺産分割協議は自己完結しているとみるべきです。そうすると先行協議の後に、新たに発見された遺産の分割については、先行協議の内容を考慮する必要がないとした本決定は妥当なものと考えます。

  • 5 付言

     なお、上記決定のケースでは、当事者からの主張もなされていなかったので、争点とはなっていませんが、新たに発見された遺産がきわめて重要な財産であって、(先行協議の際に)その存在がわかっていれば、先行協議の内容が根本的に異なってくるような場合には、そもそも先行協議は錯誤による意思表示(民法95条)であって無効である(改正民法では、取り消し得るものである)との主張をすることも考えられます。