遺言書の書き方についての10のポイント

弁護士

篠田 大地

  • 1 遺言書を書くべきか考える

    遺言を作成せずに亡くなった場合、故人の遺した財産は、相続人法定相続分に従って取得することになります。
    もっとも、実際に財産を取得するためには、相続人間で遺産分割の協議を行い、誰がどの財産をどれだけ取得するかを決める必要があります。

    遺産分割協議がスムーズに行われない可能性が高い場合、例えば、相続人同士の仲が悪い場合や、相続人の中に行方不明者がいる場合には、遺言を作成しておいた方が望ましいです。
    夫婦の間に子どもがおらず、配偶者以外の法定相続人が兄弟姉妹だけという場合も、配偶者に自宅土地建物や多くの財産を取得させるためには、遺言の作成が必要です。
    他にも、離婚して再婚し、元配偶者との間に子どもがいるという場合も、再婚した配偶者と元配偶者の子どもとの間で遺産分割協議がスムーズに行われることが通常難しいため、遺言を作成しておいた方が望ましいといえます。

    法定相続分とは異なった割合で相続人に財産を取得させたい場合や特定の財産を特定の相続人に取得させたいという場合にも、例えば、会社を経営している方が後継者である長男に会社を承継させるため会社の株式を取得させたいといった場合、遺言を作成しておく必要があります。

    また、相続人以外の第三者(息子の嫁(娘の夫)、世話になったヘルパーさん、慈善団体など)に財産を取得させたいという場合にも、遺言を作成しておく必要があります。

    逆に法定相続人が一人で、かつ、その相続人に全ての財産を取得させたいというのであれば、原則として遺言を作成する必要はありません。

  • 2 公正証書遺言で作成する

    遺言の作成方法として、利用されている頻度が高いものとして、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
    自筆証書遺言は、遺言者が自筆して作成する方法であり、公正証書遺言は本人と公証人とで作成する方法です。

    自筆証書遺言の場合、紛失のリスクや、後日発見されないリスクがある他、後に自筆かどうかで相続人間でトラブルになるケースもあります。
    たとえば、自筆証書遺言だと、自筆であることが要件であるため、夫に頼まれて妻が代筆して実印を付した場合でも、自筆証書遺言としては無効になります。
    したがって、費用や時間はかかりますが、可能であれば公証役場で公証人が作成する公正証書遺言による遺言書をおすすめします。

    公正証書遺言の場合、公証役場で原本が保管される他、偽造であることの争いが生じることはありません。
    相続人は、遺言者の死亡後、公正証書遺言があるかどうかを公証役場に照会することもできます(遺言者の死亡前には公証役場は照会に応じてくれません)。

  • 3  遺留分を侵害していないか確認する

    遺言が相続人の遺留分を侵害していた場合、後日遺留分減殺請求がなされ、相続人間でトラブルが生じる可能性があります。
    そこで、まずは遺留分を侵害しないように相続財産の分配方法を考えて遺言を作成することが考えられます。
    この場合、特別受益も遺留分の算定対象に含まれる可能性がありますので、生前贈与なども確認しておいたほうがいいと思います。

    ただ、遺留分を侵害していてもどうしても特定の相続人に相続財産を相続させたくないということもあると思います。
    このような場合には、なるべくトラブルを軽減するために、遺言に詳細な経緯を書いたり、遺言執行者を指定しておくことが考えられます。
    ただ、トラブルが生じる可能性がゼロではありませんので、遺留分を侵害する遺言を作成する際には、弁護士等に相談して作成することをおすすめします。

  • 4 相続しやすいように分配する

    たとえば、相続財産に不動産が複数あるケースで、遺言に「相続財産のうち半分を長男に、4分の1ずつを次男三男に相続させる」などの記載をすると、後日、相続人間で誰がどの不動産を取得するかでトラブルが生じる可能性があります。

    また、相続財産に不動産と預金があるケースで、遺言に、「不動産すべてを長男に、預金すべてを次男に相続させる」などの記載をすると、後日、不動産の相続を受けた長男は、相続税を支払えず、不動産を手放さざるを得なくなる、どの可能性もあります。

    このように、相続財産の分け方によっては、トラブルが生じたり、希望どおりの相続がなされないケースもありますので、遺言における相続財産の分配は、相続人にとって相続しやすいように記載する必要があります。

  • 5 高齢や入院中のときは気をつける

    遺言は、作成時に遺言能力がない場合には無効になります。
    遺言能力とは、自己の行為を弁識する能力のことをいいます。
    遺言作成時に高齢や入院中の場合には、なかには認知症の兆候が見られたり、身体的・精神的衰えから判断能力が低下し始めるなどして、判断能力に問題が出始めているというような状況になっていることがあります。

    このような状況の中で遺言を作成した場合、遺言により不利益をこうむる相続人などが「判断能力のない遺言者に他人が無理やり作せたのではないか?」などと疑い、遺言者には遺言を作成する能力がなかったなどと主張して、遺言の効力に関する争いが生ずることがあります。
    このような争いをできる限り防ぐためには、認知症の兆候が見られているような場合であれば、主治医や弁護士などと相談しつつ、遺言作成の経緯や作成時の状況を明らかにするようにし(したがって、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言が望ましいです)、また、遺言内容が作成当時の遺言者の状況で理解できるようなものであったものとするなどの配慮が必要です。

  • 6 すべての財産を記載する

    6-1 なるべく詳細に記載する

    遺言を作成する場合、自分のすべての資産についてなるべく詳細に記載しておくことをおすすめします。
    たとえば、不動産については登記をとりよせて一筆ごとに記載したり、預金については取引銀行・支店名などを記載しておきます。
    これは、後日相続人に対して、相続財産がなにかがすぐわかるようにするためです。
    「すべての財産を長男に相続させる」などの記載だけですと、相続が起きた際、残された相続人は相続財産の調査に苦労することになります。
    相続人の負担を軽減する点からも、遺言にはなるべく自分のすべての資産を詳細に記載しておくことをおすすめします。

    6-2 その余の一切の財産の処分先も決めておく

    遺言にすべての相続財産を記載したつもりでも、書洩らすこともあります。
    また、遺言を書いた後に、相続財産が変更したり、増加する可能性もあります。
    これらの相続財産についても気づいたり、変更されたり、増加する都度、遺言を変更することも可能ですが、煩雑でもあります。
    そこで、このような場合に備えて、遺言作成当時の相続財産以外の「その余の一切の財産」についても、あらかじめ、処分先を記載しておくことをおすすめします。
    これにより、上記のような書洩らし、財産の変更や増加の場合にも対応することが可能になります。

  • 7 遺言書を書く経緯を記載する

    遺言書には財産の処分方法などを記載するだけでも、もちろん有効です。
    ただし、法定相続分とは異なった配分をする場合には、なぜそのような配分をするかを記載しておいたほうが、配分の少ない相続人においても、「本人がそう思っていたのだから仕方ない」と納得を得やすいことが多いです。
    また、遺言能力の有無の判定には、遺言書を書いた経緯が合理的かどうかもひとつの考慮要素になりますが、この点からも、経緯を書くことは有効性を高める一つの材料になります。

  • 8 遺言執行者を指定する

    遺言を記載しても、相続人間で争いがある場合などは、遺言内容が適切に実現されない可能性があります。
    そこで、このような場合でも遺言を執行できる遺言執行者を遺言において記載しておくことをおすすめします。
    特に、預金の払い戻しの場合、金融機関によっては、全相続人の同意が要求されますし、不動産を換価して売却代金を相続人間で分配するなどという場合には、遺言執行者を指定しておくメリットが高いと思われます。

  • 9 相続させる相続人が先に死亡することも想定しておく

    遺言を記載しても、遺言者が死亡する前に、相続させる相続人が先に死亡することもありえます。
    この場合、遺言書になにも記載しない場合、遺言の当該記載部分は無効と判断され、遺言者の希望通りに遺言が実現されない可能性がありえます。
    そこで、たとえば、相続させる相続人が子だとして、子が先に死亡していた場合には、孫に相続させたいという場合には、遺言にその旨記載しておく必要があります。