遺産の一部を相続させるものとされた複数の推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡したとしても、直ちに遺言全部が無効となるとは認め難いとされた事例(東京地方裁判所令和3年11月25日判決)

弁護士

下田 俊夫

  • 1 はじめに

     相続させる旨の遺言がなされた場合に、受取相続人とされたものが遺言者より先に死亡したときの遺言の効力について、最高裁は、相続させる旨の遺言に係る条項と遺言の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情、及び、遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、遺言の効力は失われるとし、代襲相続は認められないとしています(最判平成23年2月22日。「相続させる」遺言の場合に代襲相続が認められるか参照)。
     最判の事案は、遺言により遺産の全部を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合のものでした。その事案とは異なり、遺言により遺産の一部を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合に、遺言のうち生存する他の推定相続人に関する部分も含めて遺言全部が無効となるかが争われた事例がありますので、紹介いたします。

  • 2 事案の概要

     遺言者Aは、平成2年6月、その所有する複数の不動産(持分を含む)を二男、三男、四男にそれぞれ相続させ、また、預貯金のうち500万円を長男に、残額を二男に相続させる旨の公正証書遺言(本件遺言)を作成しました。
     その後、平成17年11月に三男が、平成29年9月に長男が亡くなり、さらに平成30年5月に遺言者Aが亡くなりました。
     長男の子(Aの孫)は、本件遺言は、遺言者Aよりも先に死亡した亡長男と亡三男に関する部分のみならず全部無効であると主張したため、二男及び四男は、長男の子を相手に、本件遺言により不動産(持分)を取得したとして、その共有持分を有することの確認を求める訴えを提起しました。

  • 3 裁判所の判断

     裁判所は、次の通り判示して、二男及び四男の請求を認容しました。
     「遺言者が特定の推定相続人に特定の遺産を相続させる旨の遺言をし、当該遺言により遺産の一部を相続させるものとされた複数の推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡したとしても、必ずしも他の生存する推定相続人に特定の遺産を相続させる意思が失われるとはいえず、直ちに当該遺言が全部無効となってその効力を生じないとは認め難い。」
     「平成23年最判は、遺言により遺産の全部を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合において、死亡した当該推定相続人に関する部分の効力が問題とされたものであるのに対し、本件は、本件遺言により遺産の一部を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合において、本件遺言のうち生存する他の推定相続人に関する部分の効力が問題とされるものであるから、平成23年最判と本件とでは事案を異にするものというべきである。」
     「被告らは、遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、推定相続人の人数や属性が変わり、遺言の時点における分配の前提が失われると主張するが、特定の遺産を特定の相続人に相続させる理由には様々なものがあり得るから、必ずしも推定相続人の一部が死亡したからといってその前提が失われるともいえない。」

  • 4 コメント

     判決でも言及されているとおり、平成23年最判は、遺言により遺産の全部を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡前に死亡した場合において、死亡した当該推定相続人に関する部分の効力が問題とされたものです。したがいまして、遺言により遺産の一部を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合にまで、この最判を適用して遺言全部が無効であると主張することは無理があるといえ、本判決の結論は妥当であると考えます。
     遺言を作成した後に、受取相続人が遺言者よりも先に死亡した場合に備えて、予備的遺言を作成することがありますが、本判決の事案ではそのような条項はありませんでした。もし遺言を作成した後に受取相続人が亡くなった場合には、後に紛争が生ずることを防止するためにも、早めに遺言を書き換えるべきといえます。