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弁護士
前田光貴
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本判決は、被相続人Aの子であるXらが、Aの生前にAの夫であるYがAの預金を無断で引き出して利得したことを理由に、Aの死亡によりAのYに対する不当利得返還請求権を相続したと主張して、Yに対し、それぞれ法定相続分である各4分の1相当の利得金1000万円弱の支払を求めた事案です。
本件の争点は、本件預金がAに帰属していた財産といえるかについてです。
被相続人の生前に引き出された預金をめぐる相続人間の争いは、裁判実務上散見される紛争形態の一つであるところ、本判決は、預金債権の帰属について判断した一事例として参考になりますので、紹介いたします。
1 結論
Xらの請求をいずれも棄却。
2 判決の理由
(1)Yは、平成2年2月にAと婚姻して以降、夫婦として共同生活を営んでおり、当時の勤務先
であったG社からの給与等をAに渡し、また、平成13年6月頃にZ自動車を開業した後はそ
の収益をAに渡して、いずれの収入もAが管理し、これらの収入からYとAの婚姻生活に係る
費用を支出していたこと、一方で、Aは、Z自動車の事業を手伝うほかには就労等はしておら
ず、年額96万円の専従者給与以外には収入がなかったことが認められる。そうすると、本件
預金がこのようなYとAとの収入状況を基に形成された財産であることからすれば、その一部
にAの上記収入も含まれていたとしても、預金原資の出捐者は、専らYであったと認められ
る。
・・・預金原資の出捐者であるYが、Aを本件預金の預金者とする意思を有していたことを
強く否認している状況下においては、上記の口座名義及び管理状況のみをもって、本件預金が
Aに帰属していたものと認めることは困難であり、かえって預金原資の出捐関係に照らせば、
本件預金はYに帰属する財産であったことが窺われる。
(2)・・・以上によれば、本件預金がAに帰属する財産であったことを認めるには足りないか
ら、このことを前提に、AのYに対する不当利得返還請求権を相続したとするⅩらの主張は、
その余の点について判断するまでもなく理由がない。
1 本件は、夫婦の婚姻期間中に、妻が夫の収入を渡されて管理する中で形成された預金につい
て、その帰属が問題になった事案です。
2 預金債権の帰属の判断基準に関する学説は様々ありますが、判例の立場としては、客観説(自
らの出捐により自己の預金とする意思で銀行に対して本人自ら又は使者、代理人を通じて預金契
約をした者を預金者とする立場である。この説では、預入れ行為者が出捐者の金銭を横領して自
己の預金とするなどの特段の事情がない限り、出捐者を預金者とする。)を採用しています(定
期預金に関する最三小判昭48.3.27民集27巻2号376頁及び最三小判昭57.3.30金
法992号38頁)。
もっとも、判例も、預金原資の出捐者が誰かという一点のみで預金債権の帰属を決しているわ
けではなく、出捐者の預入行為者に対する委任内容、預金口座名義、預金証書及び届出印の保管
状況等の諸要素を踏まえた上で、誰が自己の預金とする意思を有していたかという観点から預金
者を判断していると解されています(最一小判平15.6.12民集57巻6号563頁等)。
3 本判決は、原審と異なり、本件預金がAに帰属していたものとは認められないと判断して、原
判決を取り消し、Xらの請求をいずれも棄却しました。
4 客観説の立場を基本とする判例を踏まえると、本件預金の出捐者を認定したうえで、本件預金
の帰属者を認定した判断は、妥当な判断といえます。
以上