孫の出産祝い金200万円のうち100万円が特別受益として持ち戻された事例【東京家裁平成30年9月7日審判】

弁護士

本橋 美智子

  • 1 「特別受益」とは

     特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」として贈与を受けた者がいる場合に、相続財産にその相続人が受けた贈与の額を加算して、具体的相続分を算定するものです(民法903条1項)。
     相続財産にその相続人が受けた贈与の額を加算することを「持ち戻す」と表現します。
     これは、共同相続人間の実質的な公平を図るために設けられた制度です。

  • 2 「特別受益の持ち戻し免除の意思表示」とは

     特別受益があった場合でも、被相続人が、相続開始までに特別受益を遺産分割において持ち戻す必要がないことを意思表示していれば、特別受益分を遺産に持ち戻す必要がないことになります(民法903条3項)。
     この持ち戻し免除の意思表示は、遺言書やその他の書面等で書かれていれば明確ですが、書面等で表示されていなくても、黙示の意思表示も認められています。
     具体的に、被相続人が持ち戻し免除の黙示の意思表示をしたと認められるかどうかは、事案によって異なります。

  • 3 東京家裁平成30年9月7日の審判の事案

     この審判の事案は、次のようなものでした。
     被相続人は、昭和51年5月ころ、二男の長男(孫)が誕生した際に、お祝い金として200万円を二男に贈与しました。
     相続人は、二男と長女の二人で、二男が遺産分割調停の申立てをしましたが、長女はこの200万円は二男の特別受益にあたると主張しました。
     この点について、東京家裁は、「二男に対するお祝い金は、その支出当時の被相続人の資産、社会的地位や当時の社会状況等に照らし、親としての通常の扶養義務の範囲に入ると評価される場合を除き、特別受益に当たると解されるところ、昭和51年当時における200万円という金額は、被相続人の資産、被相続人と二男との親子関係等を考慮するとしても、当時の貨幣価値からすると、社会通念上高額であるし、また、本件においては、長女には同様の趣旨に基づくお祝い金が贈られていないことからすると、相続人間で均衡を失するから、200万円の贈与は特別受益に当たるというべきである。」と判示しました。
     ところが、裁判所は以下のように述べて、結局200万円の贈与のうち100万円だけを特別受益として持ち戻すことにしたのです。
     「被相続人の孫の誕生を祝う心情と被相続人の資産等を考慮すると、100万円の限度においては親としての通常の扶養義務の範囲に入るものと認められるから、特別受益の持戻し免除の意思を推認できる」。
     この東京家裁の審判は、東京高裁でも維持されています。

  • 4 お祝い金は相続人間で平等に

     この事案のように、お祝い金が特別受益にあたるか、特別受益にあたるとしても持ち戻し免除の意思表示があったといえるかは、お祝い金の金額、被相続人の資産、社会的地位、被相続人と当該相続人との関係等から判断されるので、一概に言えないのです。
     ですから、後に遺産分割等で争いが生じないようにするためには、お祝い金は相続人に平等に渡しておくことが望ましいと思います。