弁護士
本橋 美智子
例えば夫が死亡して、その相続人が妻と未成年の子どもの場合に、妻とその子どもが遺産分割協議をしなければなりません。
そして、子どもが未成年者の場合には、子どもの親権者である母(妻)が法定代理人として遺産分割協議の権限を有することになります。
しかし、その遺産分割協議は、妻の取得財産を増やせば、子どもの取得財産は減ることになり、妻と子どもとは、利益が相反する関係になります。
このような場合には、子どもの親権者は、遺産分割協議に先立って、子どもに特別代理人を選任するように家庭裁判所に申立てをしなければなりません(民法826条1項)。
そして、妻と子どもの特別代理人が遺産分割協議をすることになります。
この特別代理人は、子どもの祖父母や叔父叔母等がなることが多いです。
(1) このような妻と子の特別代理人間の遺産分割協議の効力が争われた事案が東京地裁令和2年
12月25日判決です。
被相続人の夫は交通事故で死亡し、その法定相続人は、妻と未成年の長女、長男の3人でし
た。
妻は、長女、長男について、特別代理人の選任申立てをし、長女には祖母が、長男には叔父が
特別代理人に選任され、 妻とそれぞれの特別代理人の間で遺産分割協議が成立しました。
ところが、この遺産分割協議書では、長女、長男の取得分は、その法定相続分はおろか遺留分
も下回るものでした。
そこで、長女は、遺産分割協議から24年後に、妻(長女の母)に対して、遺産分割協議の無
効等を理由として、損害賠償等の請求訴訟を提起したのです。
(2) これに対して、東京地裁は、遺産分割協議において、未成年の子の特別代理人は、常にその子
に法定相続分以上の相続財産を取得させるよう協議する義務も、その子に遺留分相当の相続財産
を確保する義務もない等と判示して、長女の請求を棄却しました。
家裁の特別代理人選任の主文は、別紙法律行為をすることについて子の特別代理人を選任するとし、その別紙法律行為を具体的に特定し、特別代理人がその裁量で、法律行為の内容を自由に変更できないようにしています。
本事案の特別代理人選任の審判の主文にも、本件の遺産分割協議書記載の法律行為をすることについて特別代理人を選任するとされていました。
そのため、本訴訟でも、遺産分割協議の無効が認められなかったと思われます。
しかし、相続人の未成年者に法定相続分どころか遺留分相当額の取得もさせない遺産分割協議について、特別代理人に権限を付与することは慎重であるべきでしょう。
ですから、後日の争いを防ぐためには、特別代理人との間の遺産分割協議においては、特別の事情がない限り、子には法定相続分少なくとも遺留分相当額の遺産を取得させる内容とした方がよいと思います。