遺骨の所有者から保管者に対する遺骨の引渡しの請求が認められた事例―オウム真理教松本元死刑囚の遺骨訴訟(最高裁に、目下、上告中)(東京地裁2024年3月13日判決)

弁護士

本橋 光一郎

  • 第1 事案の概要

    1 A教団の代表者であったBについては、2018年死刑が執行された。
    2 その後、Bの四女Cと二女Xが、東京家裁に対し、それぞれBの祭祀承継者指定を申立てた。
     東京家裁は、Bの祭祀を主宰するべき者の指定があったとはいえず、Bにつき祭祀を主宰すべき
     者に関する慣習の存在も認められないとしたうえで、Bが生存していれば、おそらく自己の祭祀
     を主宰すべきものと指定していたであろう者のうち、自らも祭祀承継者として指定を受けること
     を希望しているXをBの祭祀承継者として指定し、XがBの祭祀承継物(遺骨・遺髪)の所有者
     である旨の審判をした。この審判に対してC、Bの妻、及び二男が東京高裁に抗告申立をした
     が、東京高裁はこれらの抗告を棄却し、さらに同人らは同決定に対し、許可抗告申立・特別抗告
     をしたが、東京高裁は許可抗告申立を許可しない旨の決定をし、最高裁は特別抗告を棄却する旨
     の決定をしていた。
      よって、上記家事事件により、Bの遺骨、遺髪に関する所有権はXに帰属したとされるもので
     ある。
    3 Xは、Bの遺骨・遺髪を保管しているY(国)(実際上の保管場所は、法務省所管の東京拘置
     所)に対し、所有権に基づいてBの遺骨・遺髪を引渡すよう求めて、東京地裁に訴訟を提起し
     た。

  • 第2 当事者の主張

    1 Xの主張
      Xは、Bの祭祀承継者としてBの遺骨・遺髪を所有しているところ、YはBの遺骨・遺髪を保
     管・占有しているので、それらの引渡しを求める。
    2 Yの主張
      Xが所有権に基づく引渡請求権の行使として、Bの遺骨・遺髪の引渡しを求めることは、私権
     の本質である社会性、公益性に反し権利の濫用に当たるから許されないと主張した。

  • 第3 裁判所(東京地裁)の判断

     Yは、Xの請求が権利の濫用に当たると主張するが、Xが、現在、Aの後継団体等と関係していることを裏付ける的確な証拠は存しないし、XがBの遺骨・遺髪を悪用する意図を持っていることを裏付ける的確な証拠もないこと、また、XがAの後継団体にBの遺骨・遺髪を引渡し、あるいは利用させる可能性が具体的にあるとまではいえないこと等により、Xの請求は、権利の濫用となるとは認められない。したがって、Xの請求には理由があるから、これを認容する。

  • 第4 その後の経過・現状および当方のコメント

    1 その後の経過・現状(東京高裁、最高裁)
     (1) この東京地裁判決については、Y(国)から控訴の申立てがなされた。東京高裁は、一
        審東京地裁判決を支持し、Yの控訴を棄却した(2026年2月5日判決)。東京高裁
        は、「後継団体の危険性はなお失われず、遺骨などの外部流出は公共の安全の重大な脅威
        になる恐れがある」としたが、「Xの請求は親族として悼むことが目的であり、仮にこれ
        らを奪おうとする動きがあれば、警察が対応すべき問題である」などとして、Yの「Xの
        引渡し請求は権利の濫用に当たり許されない」とする主張を退けたものである。
     (2) この東京高裁判決を不服として、Y(国)は、2026年2月18日最高裁に上告を申
        立てました。
    2 当方のコメント
     (1) Y(国)が上告の申立てをしましたので、今後、最高裁が、Xの引渡請求が権利濫用と
        いえるかどうかについてどのような判断を下すかが、大いに、注目されます。通常一般の
        場合では、原則として、「権利濫用の法理」は安易に適用されるのは望ましくない(=私
        権の行使は、本来、制限されるべきではない)といえます。しかし、本件のような場合
        に、A教団やその後継団体の特殊性等をどのようにとらえて、「権利濫用」の適用を認め
        るのか、認めないのかは、民法上の重要論点となるといえましょう。
     (2) なお、祭祀承継者の指定はどのようになされるか、遺骨・遺髪は所有権の対象として、
        祭祀承継者が取得するのか、等の基本的な事柄については、上記「第1」2の東京家裁審
        判において示された考え方が大いに参考となります。