在日韓国人が日本国内の銀行に有していた普通預金・定期預金口座の預金債権につき、韓国法を準拠法として、相続開始と同時に共同相続人らの法定相続分に応じて当然に分割されるとされた事例 【大阪高裁 平成30年10月23日判決】

弁護士

本橋 光一郎

  • 1 判決の事案の紹介

     この判例の事案を簡潔に紹介しましょう。
    (1) 被相続人A(平成25年3月死亡)は、在日韓国人(韓国籍)であり、相続人としては、配偶者X、及び、Aと前妻との間の子Z1~Z5(以下「Zら」といいます)でした。
    (2) Xは(日本国内の)Y銀行に対し、Aの預金につき、韓国民法に基づくXの法定相続分である13分の3の金額の支払を求める本件請求訴訟を提起しました。
    (3) Y銀行は、Zらに対しAの預金につき韓国民法に基づくZらの法定相続分(13分の2×5名分)13分の10を払い戻しました。
    (4) Y銀行は、(ZらはそもそもXが配偶者であること自体を争っていたため)Zらに払い戻した残金である預金の13分の3について、XとZらのいずれが正当な債権者であるかわからないとして、法務局に弁済供託しました(なお、ZらがXに対して、婚姻無効確認請求の別訴を提起したが、その後、この訴訟については、Zらの請求棄却の判決がなされて確定した)。
    (5) Zらは、XY間の本件訴訟に当事者参加して、Xに対し、預金の準拠法は日本法であるとして(最大決平成28年12月19日に基づき)上記預金の13分の3は亡Aの遺産であることの確認を求め、Y銀行に対し、上記弁済供託が無効であることを前提に、上記預金の13分の3は、X及びZらが(準共有としての)預金者であることの確認を求めました。
    (6) 本件訴訟の主な争点は、在日韓国人の預金の相続についての準拠法が韓国法なのか、日本法なのかについてでした。

  • 2 判決の内容

     一審(大阪地裁)及び控訴審(大阪高裁)ともに、在日韓国人の預金債権の相続についての準拠法は、日本法ではなく、韓国法であるとして、上記預金の13分の3の債権者はXであることが認められましたが、Y銀行の預金元本・利息についての弁済供託は有効であって、Xがその供託還付請求権を有しているので、Yの弁済供託の抗弁は認められるとして、XからY銀行に対する元本・利息の支払請求部分は棄却されました。また、ZらのXに対する預金(13分の3)が遺産であることの確認請求及びY銀行に対する供託無効を前提とする預金(13分の3)についてX及びZらが(遺産準共有としての)預金者であることの確認請求はいずれも棄却されました。

  • 3 在日韓国人の預金債権の相続の準拠法(当事者の主張と裁判所の判断)

    (1) Xは、在日韓国人の預金債権の相続の準拠法は、韓国法であるとして、次のとおり主張しました。
     法の適用に関する通則法(以下、「通則法」といいます)36条は、「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。
     そして、従来からの韓国の大法院判例では、「預金債権のような可分債権は、相続開始と同時に共同相続人らに法定相続分に応じて法律上当然に分割される。」とされており、近時の大法院判例において、(上記原則の例外として)「特別受益や寄与分のため法定相続分の再調整が必要な場合は、共同相続人間の衝平を期すために、預金債権などの可分債権についても分割対象である相続財産に含めるのを認めるのが相当である(大法院2007年3月9日決定)」との判示がなされていました。
     しかし、本件では、Xは超過特別受益者ではなく、また、Xは他の相続人の特別受益等についての主張もしていないので、上記の大法院判例による例外的な場合にも該らず、原則どおり、預金債権は、法定相続分に応じて法律上当然に分割されるという扱いとなる。
    (2) Zらは、通則法7条「法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時に選択した地の法による」、同8条1項「前項による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接に関係がある土地の法による」等の定めより、本件預金債権については、日本法を準拠法とするべきであると主張しました。
    (3) Y銀行は、在日韓国人の預金債権の相続の準拠法は、韓国法である。預金債権が誰にどのように帰属するという相続の問題は、あくまでも通則法36条によるべきであると主張しました。
    (4) 裁判所の判断
     預金債権の相続により債権が誰に帰属し、その帰属形態がどうなるか(当然分割となるか、遺産分割終了までは相続人らの準共有となるか)等については、通則法36条により、被相続人の本国法(本件では韓国法)となるものである。
     なお、預金契約の成立、取り消し・無効、義務違反による損害賠償等の預金債権の効力については、通則法7条・8条の問題となるが、相続による財産の権利の帰属及び帰属の形態等については、通則法36条によるべきである。

  • 4 まとめ(当方のコメント)

     本件判決において、在日韓国人の預金債権の相続についての準拠法は、通則法36条「相続は被相続人の本国法による」に従い、韓国法(韓国民法及び韓国判例)が準拠法となるものとされました。
     なお、韓国判例は、日本の判例と若干異なっております。日本の最大決平成28年12月19日は、預金債権は、相続開始時に法定相続分により当然に分割されるものではなく、遺産として遺産分割の対象となることを認めています。韓国の大法院判例は、預金債権は、原則として、相続開始時に法定相続分により当然に分割されるが、例外として、特別受益者や寄与者等がいるときに、預金債権が当然に分割されるとすると、共同相続人ら間の衝平を欠くこととなる場合には、遺産分割の対象となるとされています。
    したがいまして、在日韓国人の預金債権の相続については、ケースバイケースで遺産分割の対象となる場合と遺産分割対象とならない場合がでてきますので注意する必要があります。