一部当事者が出頭しない場合に調停を成立させることができるでしょうか

1 原則として全員の出頭が必要

調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立します(家事事件手続法268条1項)。
調停の成立には、原則として全当事者が出頭していることが必要ですが、一部の当事者が出頭しない場合にも、調停を成立させることはできるのでしょうか。
以下のような場合には、一部の当事者が出頭せずに調停を成立させることが可能です。

2 ①手続代理人の選任

当事者の代わりに手続代理人が出頭して調停を成立させることが可能です。
手続代理人となれるのは、原則として弁護士ですが、家庭裁判所の許可を得れば、弁護士以外が手続代理人となることができます。
一般的に多いのは、本人が病気等で出頭が難しい場合に、近親者が手続代理人になるケースです。

3 ②電話会議システムの利用

遺産分割調停では、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、電話会議システムを利用することができます(家事事件手続法258条1項、54条1項)。
そして、この電話会議システムを利用する場合には、出頭せずに関与したも出頭したものとみなされます(家事事件手続法258条1項、54条2項)
したがって、電話会議システムを利用することにより、一方又は双方の当事者が裁判所に出頭していなくても調停を成立させることができます。
ただし、当事者本人が電話会議システムを用いることは難しい場合も多いと思われます。

4 ③調停条項案の書面による受諾

当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が遺産分割調停期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは、調停を成立させることができます(家事事件手続法270条1項)。
受諾書面を提出する場合には、原則として印鑑登録証明書の添付が必要になります。

出席が難しい一部の当事者が、出席している当事者の一部と同意見であったり、遺産分割調停に関心が薄く、出席している当事者が合意した調停内容に従う意向がある場合などに、この方法が利用されます。
なお、この方法の場合、受諾書面提出後の調停期日において、調停条項案に修正を加えることができないというデメリットがあります。

5 ④調停に代わる審判

調停ではなく審判になりますが、全員が出頭しなかったり、受諾書面の提出が難しいなどの理由により調停が成立しない場合において相当と認めるときは、家庭裁判所は、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、事件の解決のため必要な審判をすることができます(家事事件手続法284条1項)。
審判は、当事者等に相当な方法で告知すればよく(家事事件手続法258条1項・74条)、期日に出頭することは不要です。

家事事件手続法において、初めて遺産分割事件に認められることになった制度です。
積極的には協力しないが反対まではしない当事者がいる場合や、手続追行の意欲を失って調停期日に出席しない当事者がいる場合に利用されています。

なお、この調停に代わる審判について、不服のある当事者は、家庭裁判所に異議の申立をすることができ、そして、適法な異議の申立てがあったときは、調停に代わる審判はその効力を失うとされています(家事事件手続法286条1項)。


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