借地人が亡くなり相続人がいない場合の地主の対処について

弁護士下田俊夫

  • 1 はじめに

    ある人に土地を貸し、その人(借地人)が土地(借地)の上に建物を建てて住んでいたところ、当該借地人が亡くなりました。

    借地上の建物とともに借地権も相続の対象になりますので、借地人に相続人がいる場合、その相続人が借地権を承継することとなり、以後の地代は、相続人が支払うことになります。

    ところが、借地人に相続人がいない場合、あるいは、相続人はいるものの相続人全員が相続放棄をして結果として相続する者がいなくなった場合、地主としては、地代を請求する者がおらず、また、生前から地代の支払を滞納していて地代不払による解除明渡しを求めるにも解除明渡しを求めるべき者がおらず、建物も無人のまま放置されて困ってしまうという事態が生じます。

    このような場合、地主としてはどのように対処すればよいのでしょうか。

  • 2 相続財産管理人の選任

    亡くなった人に相続人がいないという場合(相続人全員が相続放棄をしたという場合も含まれます)、「相続人のあることが明らかでないとき」に該当し、亡くなった人の相続財産は法人とされ、その相続財産を管理する者、すなわち、「相続財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらうことができます。
    地主は借地人の債権者であり、利害関係人にあたりますので、自ら相続財産管理人の選任の申立てを行うことができます。

    戸籍上相続人はいるものの、その相続人が行方不明や生死不明である場合には、相続人の不存在には該当しません。
    この場合の財産管理は、不在者の財産管理または失踪宣告の手続により処理されることとなります。

    申立ては、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に行います。

    申立てにあたっては、亡くなった人の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本、相続人(父母、子、兄弟姉妹、甥姪等)の戸籍謄本、相続人全員の相続放棄申述受理証明書(相続人全員が相続放棄をした場合)、不動産登記簿謄本、亡くなった人との利害関係を証する書面(借地契約書等)などの書類を提出する必要があります。

    また、申立てに必要な費用として、収入印紙代(800円)、連絡用の郵便切手(1000円弱)、官報公告費(4000円弱)のほか、財産管理費用及び相続財産管理人の報酬引き当てとなる予納金が必要となります。
    事案にもよりますが、東京家庭裁判所の場合、原則として100万円程度の予納金が必要となり、結果的に相続財産から管理報酬や実費等が全て支出できた場合には、申立人に返還されます。
    弁護士に依頼して手続を行ってもらう場合、弁護士費用も必要となります。

  • 3 借地権等の処理

    相続財産管理人(多くの場合、弁護士が選任されます)は、法の規定および家庭裁判所の監督の下に、相続人の捜索をなすとともに、相続財産を管理・換価し、相続債権者・受遺者に弁済するなどの清算を行い、最終的に相続財産を国庫に帰属させることを職務としています。
    国は、預貯金・現金などの流動資産以外の相続財産の引き取りを拒むことがあるため、相続財産に不動産が存する場合、相続財産管理人は、積極的に換価に取り組むことが求められます。

    相続財産の中に借地権が存する場合、相続財産管理人は、地主に対して地代を支払いつつ、清算のために借地権を任意売却し、あるいは、競売による換価を行うことを検討します。
    任意売却を行うためには、家庭裁判所による権限外行為の許可が必要となります。
    実務上は、任意売却の方が競売より高価かつ簡便に売却でき、また家庭裁判所の監督下で行われ公正さも担保されていることから、ほとんどが任意競売により換価されています。

    相続財産管理人が借地権を第三者に譲渡する場合、地主の承諾が必要となりますので、地主は、相続財産管理人から借地権の譲渡についての承諾を求められた場合、その諾否を検討し、回答します。
    これは、借地人自身が借地権の譲渡の承諾を求めてきた場合と同様です。

    また、地主が借地権の解消を望む場合には、自ら借地権を買い取ることを相続財産管理人に申し出ることもでき、この場合には、相続財産管理人との間で売買価格等の条件を協議することになります。
    相続財産である不動産の売買は、通常、現状有姿の引渡し条項や瑕疵担保責任の免責条項が設けられますので、注意を要します。

    もし借地人が死亡する前から地代の支払を滞納していて、地主の側からみれば、これを期に借地契約を解除したいという場合、地主としては、相続財産管理人に対して借地契約の解除を通知し、建物収去及び土地明渡しを求めます。
    他方、相続財産法人の側からみると、借地権の喪失は大きな経済的損失となり、建物の収去費用の負担も余儀なくされるため、相続財産管理人としては、賃貸借契約の解除における信頼関係破壊の理論を踏まえつつ、借地契約解除の有効・無効を争うことがあります。

    地代の滞納がそれほど長期・多額ではなく、解除の有効・無効の判断が微妙なケースで、相続財産管理人が争う場合、地主としては訴訟を提起せざるを得ず、紛争が長期化することを余儀なくされることもあります。
    このような場合には、あくまでも解除明渡しを求めるか、借地権が有効に存することを前提に換価に応じるか、慎重に判断する必要があります。

  • 4 まとめ

    借地人が亡くなり相続人がいない場合、地主としては、まずは家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。

    その後の対処については、状況に応じて、相続財産管理人が第三者に対して借地権を譲渡することについて承諾する、相続財産管理人から借地権を自ら買い取る、借地契約を解除して建物収去・土地明渡しを求める等を検討することになります。