葬儀費用の負担について

弁護士

下田 俊夫

  • 1 はじめに

    葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用と、埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。

    葬儀費用を誰がどのように負担するかについては、民法その他の法律において特に定められていません。
    ①共同相続人の負担となるとする説、②実質的喪主が負担するという説、③相続財産から出すという説、④慣習・条理により決まるという説など諸説ありますが、いずれとも決まっていません。
    葬儀費用は、通常は相続開始(被相続人の死亡)後に生じるものであるため、相続財産とは別のものであり、相続財産から当然に支払うことができるというわけではありません。
    葬儀費用は、一般的には喪主が負担すべきであると考えられており、一旦は喪主が自己の費用で立て替えて支払うことが多いと思われます。
    もっとも、相続人間で遺産分割に関して紛争が生じている場合には、葬儀費用を最終的に誰がどのように負担するかについても紛争が生じることがあります。

    葬儀費用の負担について、平成24年9月29日に名古屋高等裁判所において言渡された判決によりますと、次のように解されます。
    名古屋高等裁判所の全文
    http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/234/082234_hanrei.pdf

  • 2 亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結していた場合

    最近では、生前に葬儀に関する契約を締結し、葬儀内容を決めるとともに、互助会などに葬儀費用に充てるためのお金を積み立てておくこともありますが、このようなケースの場合、亡くなった人が当該契約の当事者であり、葬儀費用の負担方法も定めていることが通常ですので、当該契約の内容にしたがって葬儀費用の負担が決まります。

    亡くなった人がこのような契約を締結していた場合、自己の財産(相続財産)の中から葬儀費用を支払うと定めていることが多いのですが、その場合には、一旦喪主が立て替えて支払ったとしても、最終的には、相続財産の中から葬儀費用が支払われることとなり、相続人の誰かが自己の固有の財産で負担するということはありません。

  • 3 亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合

    このようなケースの場合、当該合意の内容に従って、葬儀費用の負担が決まります。

    例えば、喪主である長男が全て負担する、相続人全員が各自の相続分に応じて負担する等の合意がなされれば、その合意に従って負担が決められることとなります。多くの場合、相続人間で、葬儀費用の負担者を定める一方で、その負担を考慮して各相続人についての遺産の取得分を決めることとなります。

  • 4 上記2及び3のいずれの場合にも該当しない場合

    亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合は、追悼儀式に要する費用については、儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担することとなります。

    このような場合、追悼儀式を行うか否か、儀式を行うにしても、儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるため、儀式を主宰する者がその費用を負担するのが相当といえるからです。

    これに対し、埋葬等の行為に要する費用については、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)が負担することとなります。
    遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属すると解されていることから、その管理、処分に要する費用も、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)が負担するのが相当といえるからです。

  • 5 まとめ

    名古屋高裁判決の判断によれば、上記のとおりとなります。

    もっとも、葬儀費用は、本来的には、地域慣習、当該事案の特殊事情を考慮して判断されるべき事柄であるため、上記名古屋高裁判決の判断があらゆるケースで適用されるわけではありません。
    葬儀費用は、原則として遺産分割の対象にはなりませんが、相続人全員が合意すればその対象とすることができ、遺産分割調停において葬儀費用の負担についても話し合いがなされることがあります。
    この場合、必ずしも喪主負担説が当然の前提とされているわけではなく、共同相続人の負担説や相続財産拠出説に沿って話し合いがなされることも多いです。

    葬儀費用の負担について、被相続人が亡くなった後に、相続人間において紛争となることもありますが、このような紛争が生じることを避けるために、葬儀の方法や内容、葬儀費用の負担方法等について、遺言で定めておくことも一つの方策といえます。

    遺産分割における葬儀費用の取り扱いについては、「遺産分割において葬儀費用はどう取り扱われるのでしょうか」をご覧ください。