死因贈与について

弁護士下田俊夫

  • 1 死因贈与とは? ~遺贈との違い

    自分が亡くなった時に、自己の財産を誰にどれだけ取得させるかを予め決めておくためには、通常、遺言を作成します。
    遺言に基づく贈与を遺贈といいますが、これに似たものとして、死因贈与というものがあります。

    死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与のことです。

    死因贈与と遺贈とは、財産を無償で与えるものである点、贈与する者の死亡によって効力が生ずる点で共通します。したがって、民法では、死因贈与について、「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」とされています(民法554条)。

    他方、遺贈は、贈与者の一方的な意思表示である単独行為であるのに対し、死因贈与は、贈与者・受贈者の双方の合意が必要となる契約であるという点で異なります。
    また、方式についても、遺贈は、書面(遺言書)によることが必要であるのに対し、死因贈与は、書面による必要はないという点で異なります(形式不備な遺言が死因贈与として有効になる場合については、「形式不備の遺言と死因贈与」をご覧ください)。
    さらに、遺贈は遺言により行うため、その内容を受遺者に知らせずに行うことができますが、死因贈与は契約であるため、受贈者にその内容を知らせることができるという点で異なります。

    死因贈与は、財産の移転に関しては、贈与税ではなく遺贈と同じく相続税の課税対象となります。
    これは、通常の贈与と比べてのメリットです。

  • 2 遺贈に関する規定の準用~「その性質に反しない限り」

    死因贈与は、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用するとされていますが、遺贈に関する規定には遺贈に特有のものがあるため、個別にみていく必要があります。

    遺言能力の規定(民法961条、962条)は、準用されません。
    したがって、死因贈与を行うためには、成人である必要があります。

    遺言の方式に関する規定(民法967条以下)は、準用されません。
    遺言の方式は厳格で、自筆証書遺言の場合、全文、日付、氏名を自書し、押印しなければなりませんが、死因贈与にはこのような方式は要求されません。
    このため、自筆証書遺言が方式を欠いて無効とされる場合でも、死因贈与として認められることがあります(無効行為の転換)。
    また、口頭でのやり取りでも死因贈与が成立する可能性があります。

    遺贈の承認・放棄に関する規定(民法986条以下)は、準用されません。
    したがって、受贈者が任意に贈与を放棄することはできません(書面によらない場合を除く)。

    遺言書の検認・開封に関する規定(民法1004条)は、準用されません。
    したがって、死因贈与契約書を検認する必要はありません。
    また、死因贈与契約書は、遺言のように封印しておく必要もありません。

    遺言執行に関する規定(民法1006条、1010条ほか)は、原則として準用されます。
    したがって、不動産の死因贈与に関して執行者を指定しておけば、死因贈与執行者が選任されます。
    そして、受贈者は、執行者を登記義務者として、共同で所有権移転登記手続の申請をすることができます。
    執行者の指定がない場合は、死因贈与の執行において、贈与者の相続人全員の協力が必要になります。

    受遺者が先に死亡した場合の規定(民法994条)は、準用されるかについては、見解が分かれています。
    民法994条の準用を肯定した裁判例として東京高判H15.5.28、準用を否定した裁判例として、京都地判H20.2.7水戸地判H27.2.17があります。

    遺贈の撤回に関する規定(民法1022条以下)は、準用されると考えられています。
    したがって、贈与者は、いつでも死因贈与を撤回することが可能です。
    遺贈と同様に、贈与者の最終意思を尊重するのがその趣旨です。
    もっとも、負担付死因贈与等の場合に、自由な撤回が認められないことがあります(詳しくは後述のとおりです)。

  • 3 死因贈与の撤回

    死因贈与において、撤回が問題となることは多いです。
    以下では、撤回の可否について、贈与者死亡前と死亡後とで場合を分けて検討します。

    (1)贈与者死亡前における撤回

    贈与者死亡前においては、贈与者は、上記のとおり、遺贈の撤回に関する規定が準用されるため、原則として書面の有無にかかわらず撤回をすることが可能です(最判S47.5.25)。

    一方、負担付死因贈与契約であって、受贈者が負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、特段の事情がない限り、撤回ができないと考えられています(最判S57.4.30)。
    ここで、特段の事情があるかについては、「贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等」に照らして判断するものとされています。

    また、負担付死因贈与でなくとも、死因贈与が訴訟上の和解でされたという特殊な態様でなされた事案について、贈与に至る経緯、和解条項の内容等を総合して、取り消すことができないとした判例もあります(最判S58.1.24)

    (2)贈与者死亡後相続人による撤回

    贈与者死亡後、相続人において死因贈与が撤回可能な場合もあります。
    撤回が可能なのは、
    ①「書面によらない贈与」であること
    ②履行が完了前であること
    という条件を満たす場合です。
    これは、民法550条において、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」と定められ、当該規定は死因贈与においても適用されると考えられているためです(東京高判H3.6.27)。

    書面による贈与か否かについては、「贈与の意思表示自体が書面によってされたこと、又は、書面が贈与の直接当事者間において作成され、これに贈与その他の類似の文言が記載されていることは、必ずしも必要でなく、当事者の関与又は了解のもとに作成された書面において贈与のあつたことを確実に看取しうる程度の記載がされていれば足りるものと解すべき」と考えられています(最判S53.11.30)。

    死因贈与が撤回された場合、当該財産は、相続財産となり、遺産分割が必要になると考えられます。

    相続人が複数であり、相続人間で死因贈与を撤回するか否か意見が分かれることもありえます。
    このような場合に、どのような条件で撤回が可能かについては、見解が分かれています。
    この点、東京高判S60.6.26は、「相続人のうちの一人が、その相続分に相当する部分に限定して、贈与の一部を取り消すことも可能であると解され」ると述べています。

  • 4 死因贈与の内容を実現させるための方策~仮登記

    死因贈与の目的物を贈与者が生前に他に譲渡した場合、死因贈与の撤回をしたことになります。
    これは、遺贈の撤回に関する規定(民法1022条以下)が準用されるためです。

    贈与者の最終意思の尊重という点からすれば当然ともいえますが、受贈者の立場からすると、期待外れの結果となってしまいます。
    そこで、死因贈与の内容を実現させたい受贈者としては、贈与者の将来の心変わり備えて、権利を保全しておく必要があります。

    万全とはいえませんが、死因贈与の内容を実現させるようにしておくために、次のような方策があります。

    死因贈与の目的物が不動産の場合、生前に予め「始期付所有権移転仮登記(始期贈与者死亡)」をしておきます。
    この登記手続は贈与者と受贈者が共同で行う必要がありますが、死因贈与契約書を公正証書で作成し、その中で「贈与者は、贈与物件について受贈者のため始期付所有権移転の仮登記をなすものとし、贈与者は受贈者がこの仮登記手続を申請することを承諾した。」という文言を記載しておけば、受贈者が単独で申請することが可能となります。

    贈与者が亡くなった場合、死因贈与による登記手続は、原則として、受贈者と贈与者の相続人全員で行う必要があります。
    もっとも、死因贈与契約書を公正証書で作成し、かつ、その中で執行者(受贈者が兼ねることができます)を指定しておけば、受贈者兼執行者として単独で死因贈与による所有権移転登記手続を行うことができます(執行者を受贈者とは別の人に指定していた場合には、受贈者と執行者との共同申請となります)。
    なお、私署証書で執行者が指定されている場合には、真正担保のため、贈与者の印鑑証明書(但し、登記申請の3ヶ月以内に発行されたものでなくても可)が必要となります。

    遺贈の場合には仮登記をすることはできませんが、死因贈与の場合には上記のように仮登記をすることができるため、受贈者が仮登記により権利の保全を行うことができるという点で違いがあります。

  • 5 死因贈与の活用と留意点

    死因贈与は、遺贈のような厳格な方式が要求されていないにもかかわらず、遺贈と同じ効果が期待でき、しかも贈与税が課税されるのではなく、相続による財産の取得として相続税が課税されるため、重宝されます。
    確かに、公正証書遺言作成のような立会人も費用も要らず、自筆証書遺言のような全文自書を要せずにワープロ作成でもよく、家庭裁判所の検認も必要ないという点や、仮登記までして権利の保全ができるというのは、相当なメリットといえます。

    他方、そもそも贈与があったのか、贈与者の行為能力、意思能力が疑われたり、本人の意思に基づいて死因贈与したか疑われたりすることもあります。

    そのため、自分で死因贈与契約書を作成する場合(公正証書によらない場合)、署名は自書し、実印を押印して印鑑証明書を添付するなどの配慮をしておくことが望ましいです。