株式の相続と株主総会決議

弁護士

篠田 大地

  • 1 はじめに

    株式に相続が生じた場合、遺産分割協議ができないと、株主総会決議が開催できないことがあります。
    株式会社では、毎年決算の承認を行ったり、2年ごとに取締役の選任が必要なことが多いですが、株式に相続が生じて、これら必要な決議ができないことがあるのです。
    以下では、具体的にどのような場合が問題なのかを見てみます。

  • 2 株式の準共有

    株式に相続が生じた場合、株式は不可分であり、遺産分割がなされるまでは共同相続人が株式を準共有する状態となります。
    したがって、株式は遺産分割の対象となると考えられており、株式の最終的な帰属は遺産分割によって決める必要があります。
    これを逆からいうと、相続が生じても、直ちに相続人が法定相続分割合で株式を取得するわけではないということになります。

  • 3 議決権行使

    株式に相続が生じ、遺産分割協議がなされるまでの間、株主総会決議における議決権行使は以下の方法で行う必要があります。
    ① 相続人が議決権を行使するには、相続人間において、権利行使者1人を定め会社に通知する必要がある(会社法106条)。
    ② この権利行使者の指定は持分価格の過半数で決する(最判H9.1.28)。
    ③ 権利行使者の指定および会社への通知が済んだ以降は、権利行使者が自己の判断で議決権することが行使できる(最判S53.4.14)。
    ④ 会社法106条但書には、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」とあるが、会社が権利行使について同意をしても、権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったもの(原則管理行為として持分価格の過半数による決定)でなければ、適法とはならない(最判H27.2.19)。

    以上からすると、相続人間で、持分価格の過半数を取ることができない場合(たとえば、子供2人で相続分が2分の1ずつの場合)には、相続株式は議決権行使することができないということになります。
    逆に、持分価格の過半数を取ることができる場合(たとえば、子供3人で相続分が3分の1ずつで2:1に分かれる場合)には、多数派は相続株式全部について議決権行使することができるということになります。

  • 4 株主総会の定足数

    株主総会の普通決議を例にとると、定足数として、議決権の過半数を有する株主の出席が必要であり、決議は出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う必要があります(会社法309条)。
    この定足数の母数に、相続株式も含まれるかどうかですが、最判H27.2.19では、相続株式も定足数の計算における母数に入れることを前提としており、相続株式を母数に入れる必要があると考えられます。
    したがって、たとえば、発行済株式総数が3,000株で、被相続人が2,000株、相続人の1人であるAが1,000株を保有している場合を考えてみると、被相続人の2,000株について、遺産分割協議がなされず、会社法106条に基づく権利行使がなされていなくても、定足数は3000株の過半数である1501株ということになります。

  • 5 株主総会を開催できない場合

    以上のことから、以下のような場合、相続人間で遺産分割協議ができず、権利行使者の指定ができないと、株式の帰属が確定するまで、定足数を満たさず、株主総会決議をすることができなくなる可能性があります(なお、以下の事例は、相続人間で過半数により権利行使者を指定することができない場合を想定しています)。
    ① 被相続人が50%以上の株式を有している会社
    ② 被相続人の株式保有割合が50%未満だが、被相続人と反対派合計で50%を超える会社の場合

    ②は、たとえば、父が40%、長男が40%、次男が20%の株式を持ち、長男が会社の代表取締役であったところ、父が死亡したというような場合です。
    この場合、長男が株主総会を開催しようと考えても、次男が非協力的で出席しない場合、出席率が40%しかなく、定足数を満たさない可能性があります。

  • 6 対応策

    上記のように、株式に相続が生じて、遺産分割まで時間を要する場合、株主総会決議を開催できないリスクがありますが、このようなリスクを回避するためには、遺言を作成することが有効です。
    遺言で、株式を特定のものに相続させると記載しておけば、株式の共有の問題が生じることはなく、遺言で指定されたものが直ちに株式を取得し、議決権を行使することができます。