へき地(田舎の土地)を相続した場合、放棄することができるか

弁護士

篠田 大地

  • 1 はじめに

    両親や祖父母がへき地に不動産を所有し、これらを相続したが、自分にとっては不要であり、できれば所有していたくないという場合があります。
    このような場合、当該不動産を放棄することはできるのでしょうか。

  • 2 へき地を所有していることのリスク

    自分が管理できない不動産を所有していると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
    まず、所有者である以上、固定資産税が発生し、毎年これを納税する必要があります。
    また、土地上に建物があり老朽化した場合、建物が倒壊等して第三者に損害を与えたり、土地上に不法投棄がなされ第三者に損害を与えたりする可能性があり(たとえば、土地上に産業廃棄物が無断に廃棄され、土や水を汚染して、近隣に被害を与えるなど)、このような場合には、損害賠償責任を負う可能性もあります。
    さらに、このような不動産の場合、買い手もおらず、売却をすることも困難です。

  • 3 相続放棄

    相続が生じた場合、相続人がなにも手続きをとらないと、相続分に応じて不動産を取得することになるのが原則です。
    この点、相続放棄を行えば、遺産を取得しないことになりますので、へき地も取得しないで済むことになります。

    相続放棄は、原則として、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に対して申述する必要があります。
    また、相続放棄をすると、遺産すべてを取得できないことになります。
    へき地以外にも多数の遺産がある場合などには、これらの遺産の取得もできなくなるため、この方法はおすすめできません。

  • 4 遺産分割協議

    遺産分割協議により、遺産である不動産を、特定の相続人1人が取得することも考えられます。
    たとえば、兄弟のうち1人が、親の近くに住んでいたなどの事情で、地方の不動産の取得を希望していた場合には、兄弟の1人が地方の不動産を取得する内容の遺産分割協議を行うことが考えられます。

  • 5 共有持分の放棄

    相続放棄も遺産分割協議もできない場合に、それでも不動産を放棄したいという場合、共有持分の放棄という方法が考えられます。
    共有持分の放棄は、他の共有者(相続人)に対して意思表示することで行うことができます(民法255条)。
    具体的には、当該不動産を放棄する旨記載した内容証明郵便を送付するなどが考えられます。

    共有持分を放棄した場合、他の共有者がその持分を取得することになります。
    たとえば、A、B、Cがそれぞれ3分の1ずつ共有持分を有している場合に、Aが共有持分を放棄すると、B、Cが2分の1ずつ持分を取得することになります。

    民法上、共有持分の放棄には、他の共有者の同意は不要ですが、共有持分の放棄に基づく不動産の移転登記は、共同申請とされています。
    したがって、実際上移転登記を行うには、他の相続人の同意を得る必要があります。
    ただ、他の共有者からの同意が得られない場合には、移転登記請求訴訟を提起し、債務名義を得ることで、移転登記を行うことが可能です。

    共有持分の放棄は、不動産が共有の場合にのみ行うことが可能であり、単独所有の場合には行うことができません。
    したがって、共有者全員が不動産の取得を希望しない場合、不動産の押し付け合いになることがありえます。
    この場合、基本的には、早い者勝ちで先に放棄の意思表示を行ったものが優先され、最後に残った共有者が不動産を単独所有することになります。
    他の不動産共有者の意向を無視して共有持分の放棄を行った場合、共有者間でトラブルになることもありえますので、注意が必要です。