死後離縁と相続

弁護士

本橋 光一郎

  • 1 死後離縁とは

    (1)養親及び養子が共に生存しているときは、双方の協議による協議離縁や裁判所が離縁を認める裁判離縁という制度があります。では、養親あるいは養子の一方が死亡してしまった後でも養子縁組の離縁はできるのでしょうか。
    (2)民法811条6項には、「縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。」という定めがあります。
    (3)したがいまして、養子縁組の生存当事者が養親の場合でも、養子である場合でも死後離縁の許可を家庭裁判所に申立てることができます。
    (4)この死後離縁は、縁組当事者間の法定血族関係の消滅を目的とする制度とされます。夫婦の一方が死亡した後に、嫡族関係終了という制度がありますが、これに相通じる意味合いがあります。

  • 2 死後離縁の手続

    (1)死後離縁は、家庭裁判所に死後離縁の許可の審判を申立てて、家庭裁判所が許可の審判を出すことによって、効力を生ずることになります。
    (2)家庭裁判所の許可は、生存当事者の申立てがとくに濫用的・恣意的なものでない限り、原則として認められると考えられます。

  • 3 死後離縁の効果、とりわけ相続との関係はどうなるか

    (1)死亡当事者との間の相続
       死後離縁の許可がなされる以前に、まず、縁組当事者の一方が死亡したという事実により相続が発生しております。一旦発生した相続には影響がありません。例えば、養親死亡に伴い、養子が相続人として、財産を取得した後に死後離縁をしたとしても、養子は相続により取得した財産を返還する必要はありません
       また、養親が死亡して、相続人間の遺産分割が終了していない時点で、養子が死後離縁をしたとしても、相続権が失われるものではなく、その後に遺産分割を受け得るものと考えられています。ただし、生存当事者が相続放棄をすることは(相続放棄の要件を充たす限り)可能です。
    (2)兄弟、祖父母などとの間での将来の相続関係はどうでしょうか。
    死亡した養親と死後離縁した場合は、それ以降、元の兄弟、祖父母との関係は絶たれた扱いとなりますので、元の兄弟、祖父母との間の相続は、受けられなくなると考えられます。
       また、その反面として、元の兄弟、祖父母との間における相互の扶養義務も消滅すると考えられます。
    (3)その他、氏(苗字)はどうなるでしょうか。
       原則として、復氏することになりますので、元の氏・苗字に戻ることとなります(民法816条1項本文)。ただし、民法816条2項により、縁組の日から7年を経過した後に復氏となる者(養子縁組をしていた期間が7年以上であった者)は、離縁の日から3か月以内に戸籍法に定める届出(いわゆる続用届)を出すことにより、離縁の際に称していた氏を称する(いわゆる氏の続用をする)ことができます。