受託者が権限違反行為をした場合どのように対応することができますか

1 受託者の責任

受託者は、善管注意義務、忠実義務、公平義務、分別管理義務等様々な義務を負っていますが、これらの義務を違反した場合、あるいは違反しようとしている場合について、受益者は、以下のような権利があり、これらにより対応することが可能です。

2 受託者の損失てん補責任

受託者が、任務を怠り、信託財産に損失や変更が生じた場合、受益者は、受託者に対して、損失のてん補や原状回復を請求することができます(信託法40条1項)。
ただし、信託財産に損失が生じた場合には、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、現状の回復を求めることはできません。

受託者が、信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがないなど、本来は第三者に委託することができないのに、信託事務の処理を第三者に委託した場合等において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、損失填補責任を免れることができません(信託法40条2項)。

受託者が忠実義務違反の行為をした場合には、受託者は、当該行為によって受託者又はその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定されます(信託法40条3項)。

受託者が分別管理義務に違反して信託財産に属する財産を管理した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、分別管理義務に従い分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、損失てん補責任を免れることができません(信託法40条4項)。

なお、受益者は、損失てん補責任を免除することができます(信託法42条)。

3 受益者による受託者の行為の差止め

受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者は、受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができます(信託法44条1項)。

受託者が公平義務に違反する行為をし、又はこれをするおそれがある場合において、当該行為によって一部の受益者に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該受益者は、受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができます(信託法44条2項)。

4 検査役の選任

受託者の信託事務の処理に関し、不正の行為又は法令若しくは信託行為の定めに違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、受益者は、裁判所に対して、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を調査させるため、検査役の選任の申立てをすることができます(信託法46条1項)。

選任された検査役は、その職務を行うため必要があるときは、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求め、又は当該信託に係る帳簿、書類その他の物件を調査することができます(信託法47条1項)。
そして、検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載した書面を裁判所に提供して報告をする必要があります(信託法47条2項)。
また、検査役は、裁判所に対する報告とともに、受託者及び検査役選任の申立てをした受益者に対し、調査結果を記載した書面を交付する必要があります(信託法47条4項)。

5 受託者の権限違反行為の取消し

① 信託の登記または登録をすることができる信託財産(不動産など)の場合

受託者が信託財産について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができます(信託法27条2項)。
ア 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について信託の登記又は登録がされていたこと。
イ 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

② ①以外の信託財産の場合

受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができます(信託法27条1項)。
ア  当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。
イ  当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。


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