成年後見人はどのような死後事務を行うことができますか

1 はじめに

成年被後見人が死亡したのちの成年後見人の権限については、従前その範囲が不明確であったこともあり、平成28年4月の「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」の成立において、新たな規定が新設され、明確化されました。

2 民法873条の2

新設された民法873条の2では、以下の場合に成年後見人が死後事務を行うことができるとされています。
① 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
② 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
③ 成年後見人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為

上記の死後事務行為を行うことができるのは、「必要があるとき」です。
したがって、成年被後見人が死後事務行為を行うことが必要でない場合(相続人が行っても特段問題ない場合)には、死後事務行為を行うことはできません。

また、「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなとき」も、死後事務行為を行うことはできません。
相続人が複数いる場合、相続人の一人でも反対の意思を表明している場合には、これにあたり、死後事務行為を行うことはできないと考えられます。

成年後見人が死後事務行為を行うことができるのは、「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」です。
成年後見人は、成年被後見人の死亡後2か月以内に管理の計算をし、相続人に成年被後見人の財産を引き渡す義務を負っていますので(民法870条)、基本的には死後事務は成年被後見人の死亡後2か月までを想定していると考えられます。
仮に、相続人間の対立があるなどの理由で、成年後見人が2か月以内に相続人に遺産の引き渡しを行うのが困難である場合には、相続財産管理人選任の申立てを行い(民法918条2項)、選任された相続財産管理人に相続財産を引き継ぐべきものと考えられます。

3 ①特定の財産の保存に必要な行為

「① 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為」とは、相続財産に属する債権について時効の完成が間近に迫っている場合に行う時効の中断や、相続財産に属する建物を修繕する必要がある場合にこれを修繕する行為などが想定されています。
なお、建物の修繕を行うに際し、その費用を、成年被後見人の預金口座から支出する場合、預金口座からの払戻しは、後述の「③その他相続財産の保存に必要な行為」にあたり、家庭裁判所の許可が必要と考えられています。

4 ②債務の弁済

「② 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済」とは、成年被後見人の入院時の医療費や、住居の家賃の支払いなどが想定されています。
この支払についても、成年被後見人の預金口座から支出する場合、預金口座からの払戻しは、後述の「③その他相続財産の保存に必要な行為」にあたり、家庭裁判所の許可が必要と考えられています。

5 ③火葬等に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為

「③ 成年後見人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」は、上記①及び②とは異なり、家庭裁判所の許可を得て行う必要があります。
「成年後見人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結」とは、遺体の引き取りや、火葬等に関する葬儀業者との契約の締結をすることが想定されています。
納骨に関する契約もこれに含まれると考えられる一方、葬儀に関する契約はこれに含まれないと考えられています。
「その他相続財産の保存に必要な行為」とは、債務を弁済するための成年被後見人の預金口座からの払い戻しの他、成年被後見人の自宅の電気・ガス・水道等の解約などが想定されています。

なお、家庭裁判所の許可を得ずに、③の行為を行った場合、無権代理となり、原則として、当該行為の効果が相続人に帰属しないことになります。
ただし、応急処分や事務管理の規定に基づく場合には、家庭裁判所の許可を得ずに行うことも可能と考えられます。
また、当該行為を行った後に、事後的に家庭裁判所に許可を求めることも可能と考えられています。


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